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編集者から

 私は、クリスマスイブの夜自宅でこの原稿を書いています。この一年を振り返ると、私が記憶する限り最も忙しい年でした。ICEVIの世界規模の仕事は、息をつぐ暇もないほどのペースで進んでいます。しかし、2015年までにすべての視覚障害児に平等な教育機会を与えると言う我々の目標を達成するにはやらなければならないことはまだたくさんあります。

 この我々の目標達成にとってどうしても必要なものは、視覚障害児のニーズを充分理解する教師の確保です。これは私にとって特に身近な課題です。なぜなら、私自身が視覚障害者の教員養成を専門としているからです。Educatorのこの号では、世界各地での人材養成についての寄稿がいくつかありますが、この大きな題材の表面をほんの少しなでるだけと言わざるを得ません。どうぞ、ICEVIのウェブサイトにアクセスして下さい。そこには、この話題に関する広範囲の情報がのせられており、中には昨年のICEVI世界大会での発表、「インターネットや人工衛星技術を使った教員養成訓練」などの注目すべき情報が満載です。さらにヨーロッパ地区のウェブサイトでは、そこで実施されている教員養成訓練の共通カリキュラム作りに関するいくつかの見解が述べられています。

 当然のことながら、私はこの号にお寄せいただいたすべての寄稿者に感謝の意を表したいと思います。しかしまた、寄稿の中で特に興味深かった二つの論文についてここで言及したいと思います。フィリピンとウガンダからの論文は、全盲の子供たちが地域の学校で教育的成果を上げ、そのことでその地域全体にあった障害児に対する否定的な対応がプラスの方向に変化しつつあるプログラムの内容に関するもので、我々にとって大変励みになるものです。これらプログラムの成果は、非常に多くの子供たちとその家族の生活を短期間に質的に転換させたことです。しかし、心配な流れもあります。これらの地域、また他の多くの地域においてやっと勝ち取った教育上の成果を, 逆戻りさせようとする動きがあるのです。

 私はつい最近ウガンダから帰ったばかりです。ウガンダにはICEVIの研究プロジェクトの一環として事務局長と一緒に訪問したのですが、それに関する詳細はこの後の章で述べます。そこに滞在中、私は中央及び南アフリカにおけるHIVとAIDS感染の影響に関する多くのニュースを読んだり聞いたりしました。いくつかの国では、人口のおよそ40%がHIVに感染しています。この感染症は社会のあらゆるレベルの人に影響を及ぼしていますが、中でも経済的な担い手である世代への影響から経済的社会的進歩が後退しつつあります。多くのアフリカ諸国の平均寿命は、AIDSの勃発以来、劇的に落ちています。未だにいくつかの国では、この病気をタブー視し、ひそひそ話で語られると言う現状もありますが、現実にはほとんどすべての人が、親戚や友人など誰かをAIDSで失っています。学校も優秀な教師たちを失っています。そのうちの何人かは視覚障害児を教える教師です。ウガンダでは、対抗措置が取られはじめています。問題をオープンにして議論し、公教育の中でイニシアティブをとる事で成功した例もあります。アフリカにおいてもっと広く、もっと安く薬が手に入るようになれば、ウガンダの状況はずっと改善されるでしょう。しかし、他の国ではまだ絶望的な状況のままです。

 フィリピンの論文には、また違った問題が見えます。どの国においても視覚障害児へのサービスを向上させ、もっと多くの子供へそのサービスを広げるためには、しっかりとした訓練を受けた有資格の教員が必要であることは明白です。しかし、避けがたい副産物でもあるのですが、ある人が優秀であればあるほど個人として、また職業的にも地位の向上の機会が多くなり、その向上心のゆえ訓練を受けたポストを捨てたり、時にはその国を去ることさえおきてきます。フィリピンにおいてもこの国で最も優秀な視覚障害の教員が何人か、30倍も高い給料に惹かれ、母国を去ろうとしているということをこの論文は教えてくれます。

 視覚障害の優れた有資格の教員は世界中どこでも求められています。問題ははっきり言って、豊かな国がそれでなくても人材も乏しい貧しい国から、医師、看護婦、そして教員をより高い給料で引き抜いてしまうことです。このような流出は多くの国において、視覚障害児へのサービスの発展を妨げる可能性をもっています。一方これは解決が大変難しい問題でもあります。自分自身を向上させたいと願う人々を誰が非難できるでしょうか。しかし、驚くことには、ウガンダのような国々で私がお会いした有能な多くの人々が、社会的経済的出世を棒に振って、給料の低い仕事に留まっているという事実があることです。彼らは今自分たちが関わっている視覚障害児たちとの関係を大切にしたいと考えているのです。

 新年にあたり、我々のすべての教員と教員養成に関わる人々に幸運と成功を祈りたいと思います。我々の掲げる平等という目標を達成するにはまだ障害があるでしょう。前進が妨害される恐れもあるでしょう。しかし、そのような事にはめげずに頑張りましょう。このEducatorの多くのページには、未来への希望を正当化できる証拠がたくさん詰っています。

新年おめでとうございます

スティーブ・マコール(Steve McCall)

編集者

(訳:青木和子)

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