ブラジルは Jomtien協定(Jomtien Agreement、タイ、1990)と万人のための教育世界宣言(World Declaration on Education for All、サラマンカ、1993)の署名国で、この二つは、個人の基本的学習のニーズ、人間の可能性の尊重、人生の質の向上、および、自分のコミュニティの中で市民として社会活動に参加することなどを核とする教育を支援している。
この責務に沿って、ブラジルの全国教育ガイドライン1996と初等教育における特殊教育ガイドラインはメインストリーム教育システムの中で、重度の障害か深刻な学習障害をもつ人々のインクルージョンを推奨している。
この目的のために、国、州、地方自治体が協力して、障害者側から起こったニーズを基礎とする教育のシステムであるインター・セクター・イニシアティブ(inter-sector initiative)を実施するよう提案している。
ブラジルでは、特殊教育ニーズの考え方が大きく発展した。家庭、学校、そしてインクルージョンを支援し実施している特殊教育機関とが一緒になってインクルーシブ・プランを推し進めるために、国のガイドラインが作成された。
児童教育の分野では、教育を権利として積極的に受け入れられていった。
早期支援計画への臨床的アプローチを基礎とした介護(caregiving)は、特別な教育ニーズをもつ子供の学習を推し進めるために、多様性、家庭生活や環境の変化の重視、社会教育に重きを置く方向に発展した。
教育省は、初等教育庁と特殊教育庁を通して、実際的なアドバイスを開発し、特別な教育ニーズをもつ子供たちの教育戦略(2003)の形で教育に関するガイドラインの中に盛り込んだ。8冊から成るガイドラインは以下のものを含んでいる:イントロダクション、重度学習障害 また発達プロセスにおける制限、重複障害、身体障害、コミュニケーション障害、視覚障害、聴覚障害、盲ろうと高知能児童。
これらの資料は5,800の市町村に配布され、ガイドラインの内容を実際に実施するのはこれら市町村の責任となる。
また、クラス担任の教育戦略、カリキュラム構成、curricular access、教材の採用、付加的カリキュラムの吟味に関する指導が含まれる。
視覚障害の分野では3つのドキュメントが用意されている:視覚障害の理解、視覚障害をもつ生徒・学生の教育、リハビリテーション。
教育省は、特殊教育庁とABEDEV-ブラジル視覚障害をもつ教育者協会−の協力を通して、25CAPA−インクルージョン教育サポートセンター−を設立した。このセンターの構想はICEVIブラジルのメンバーであるマリルダ・マラエス・ガルシア・ブルーノによるものである。センター設立のプロジェクトは、ブラジルの各州に住む視覚障害をもつ青少年のインクルージョン教育と教員、親(保護者)をサポートするために、教育省が実施した。
教育サポートセンターは点字本、拡大図書を製作し、支援機器のワークショップを開き、生徒・学生に機器の使い方を教えている。
なお、同センターは大学や専門教育機関と合同で研修・訓練を行い、教育に関する調査
研究も行っている。
大都市のセンターはサンパウロ市のララマラ(Lararama)、ドリナ・ノエル基金、Santa Casa de Misericordia,カンピナス市のCEPRE,リオデジャネイロ市のベンジャミン・コンスタント協会、サルヴァドル市の盲人協会等の専門機関が運営している。
これらのセンターは多くの機能を備えている。たとえば、視覚の判定、早期介入プログラム、インテグレーション開発のための評価とガイダンス、また生徒・学生のためのプログラムには移動と方向、日常生活技術、コミュニケーション、点字・そろばんがある。さらに、支援機器などが供給される。
わが国が直面している大きな問題は重複障害をもつ生徒のインクルージョンである。
この問題に取り組むため、サンパウロ市のララマラはインクルージョンのための研究グループを組織し、日常生活での問題に取り組み、家庭、コミュニティ内のリーダーシップの開発を目的とした、教員のための教育と研修訓練を行った。充分なカリキュラムを行えるように、生徒・学生、教員、保護者のための教材を作成し、機材・用具を備え、技術アシスタントを用意した。
たとえば、1999年以来ララマラではパーキンス点字タイプライター1681台、白杖152本を全国に配布した。白杖の場合は100本がスポンサーや寄付運動によって視覚障害者に無料で配られた。
ブラジルは矛盾に満ちた広大な国である。過去10年間わが国は法律の面で大きな発展を遂げ、視覚障害者の社会的権利を保証し、学校、職場、社会においてインクルージョンを保証するために、勧告,提案、ガイドラインを発展させてきたことは疑いもないことである。しかしながら、我々を当惑させるのは、前述したように、サービスは手に入るが、実際面で、視覚障害をもつ生徒・学生やその家族は全ての学校に自分たちが必要としている資源や支援を見出せるわけではない、という事実である。