20世紀の後半に入る前までは、アメリカの視覚障害児の学校は、利発な盲児の避難所であり、彼らの天国でした。しかし、重複障害者ではない、彼らのような生徒は、多数派には程遠かったのも事実です。そして、通常学校の、障害を持たない生徒が受けている授業と比べても遜色なく、場合によってはよりよい教科教育を受けていたのです。20世紀の後半になると、盲学校では激動が起こります。よく知られているように、また、期待されるべきであったように、重複障害を持たない盲児の親たちのほとんどは、通常学校の在籍を強く望んだのです。この運動は、やがて急速な生徒数の減少がおこった盲学校から離れていきました。
しかし、私たちが視覚障害の診断の意味する内容を深く認識することや、重複障害児童生徒の指導の責任を負うべきことを徐々に自覚していくことによって、盲学校の空き教室の多くは、複雑な事情を持つ生徒や、重複障害児童生徒によって再び満たされていったのです。このようなことが、盲学校にとって良かったかどうかについては、ここでは議論しません。ただ、私の見解を書くならば、重複障害があろうとなかろうと、すべての視覚障害児童生徒は、専門性を持った教育をうけ、そこから成果を得るべきであるということです。
1970年代中ごろから、英国、ドイツ、オーストラリア、日本の盲学校の出現しつつある問題について語るのは私の得意とすることでした。そして、例外なく私が恐れていた最悪の事態が現れてしまいました。統合教育が進行しつつある米国以外の国々では、通常の学校への就学と盲学校への就学を主張する人たちの間に、緊張が作られました。こうしたことに対して、世界中の盲学校の同僚への私のメッセージは、一つでした。「インクルージョンと戦わないで下さい。それは、避けられないことなのです。だから、インクルージョンを認め、それを支援し、促進するための積極的な方法を見つけるべきなのです。」「インクルージョン教育の成功者が、今度は盲学校のリーダーになる可能性だって大いにあるのです。」わたしは、このメッセージがとても、深刻に受け止められるのではないかと思っていました。しかし、最近では、そうではない現実的な意見であると感じてきています。
たぶん、この分野の専門家には、3つのタイプのグループがあります。はじめのものは、声が大きなグループです。それは、盲児はすべて盲学校に通うべきである、というグループです。このグループは、減少しつつあります。次に、すべての視覚障害児童生徒は、通常学校にいくべきであるという主張をする、声の大きなグループです。彼らは、差別の禁止ということに根拠をおいています。3番目のグループは、生徒の在籍がどこの学校であろうと、個々のニーズに応じた教育が与えられるべきである、ということを信じているものたちです。この第3のグループは、政治的企図をもっていません。そうではなく、彼らは、個々の盲児や視覚障害児童生徒にとっての適切は教育というのは、個々のニーズに応じて用意するものである、ということだけを単純に信じているのです。個々のニーズは、年々変わるでしょう。このことは、これに応じて在籍する学校が変わることを意味しています。
私自身にとっての「第3グループ」では、2つの信念が付け加わります。
盲学校に対しての、以上の私の信念を理解してもらうために、さらに、私の基本的信念を知ってもらいたい。
必要ならどこであっても、専門知識を広めていくことは、盲学校が専門性を持つことから来る責務です。そして、このことが本当に可能であるためには、盲学校のあり方の根本的な変革が必要になります。事実、アメリカの2つの学校は、その名称を変更しました。「ウィンスコンシン盲学校」は「ウィンスコンシン視覚障害教育センター」となりました。ネブラスカ州でおこったことは、州議会が、盲学校に対して州全体の視覚障害学生の教育に重要な役割をするように命じたのです。
重要な変革が起こったのです。寄宿舎を持つ盲学校が在籍する生徒を助けるのと同様に、通常学校すべての視覚障害児の教育を豊かにするために、その方法を開発しているのです。わたしに、いかにひとつの学校、テキサス盲学校、が発展していったか、話させてください。
テキサス盲学校では、生徒のニーズあわせて必要な期間寄宿を利用し学習するか、地域の学校で支援をうけて学習するかを選択するという教育プログラムがあります。以下のものは、こうしたプログラムの一部です。
1,個別化された教科、応用的または実用的カリキュラム
2,職業能力の指導
3,自己評価
4,課外活動
5,教育上困難を持つ生徒の教育
6,サマー・プログラム
7,短期授業
これらのリストから、テキサス盲学校が、寄宿舎を持つキャンパスで、学生にどのようなこと与えようとしているのかというこの考えをみることができます。これらのプログラムの展開には、2つの流れがあります。まず、学生は3年以上テキサス盲学校に在籍することはまれなことです。ある学生がテキサス盲学校に受け入れられるようになるには、地方学区から、その学生の認知された個別のニーズに対して、我々が学校で指導できうるという通知がでます。そして、盲学校内でその学生のニーズがみたされると、地元の学校へもどるのです。次に、教科的なものが、上記のリストにはほとんどないことに注目してください。これは、地元の学校が、適切な教科学習の指導ができるように対応していったためです。ですから、テキサス盲学校に紹介される学生は、教科学習と関係のない教育ニーズが理由であることがほとんどなのです。
しかし、時間と共に、点字使用の学生にとって、特に難しい教科があることが多くの専門家に指摘されるようになりました。科学、数学、地理がそれです。この学習教材の空間的な表現の仕方の多くは、点字使用の生徒にとっては、難しいのです。むしろ、一次元的な点字で学ぶほうがずっと効率的です。テキサス盲学校は、地方学区において、この点字の教材で授業を受けることのできない学校の学生のために、代数、生物、科学、地理の教材を提供し始めました。
ところで、テキサス盲学校が州全体のリソースセンターとなることを、あなたはどう思われますか?この盲学校には、専門的なスタッフがいるからこそセンターとして働くのです。また、そうだからこそ、エリア全体の学生たちへのサービスをもたらす「ハブ」となることができるのです。すでに示した、私の信念を思い起こしてください。テキサス盲学校は、テキサス全州にわたるサービスを行います。テキサス盲学校には、1年間におよそ150人の学生が在籍します。一方で、州には、さらに、6500人の視覚障害学生がいます。テキサスの視覚障害学生すべてに対する責任を分担することは、テキサス盲学校が信じ、州議会の承認していることです。
次の表は、テキサス盲学校の新しいプログラムの例です。これは、いままでの寄宿舎がある学校という役割を低下させるというものではないのです。もっと正確にいえば、州全体の通常学校と、我々の専門知識を共有するという根本的で、有効な役割を増大させていくものなのです。
わたしは、それぞれについての簡単な説明をしましょう。そのことを通して、なぜテキサスも学校が州全体の視覚障害学生の生き生きとしたリソースセンターとなったかを説明できます。
2002年9月から、テキサス盲学校は、高校の卒業生のために、州リハビリテーション機関と協力したプログラムを始めました。地域の学校では、社会的技術、進路教育、支援技術など教科的でないエリアの指導をすることが多くの場合非常に困難なので、こうしたことが最優先される事項となるのです。これは、ヨーロッパでは新しいことではないかもしれないが、米国では新しいことになります。
毎年、テキサス盲学校では地域の学校で生活する学生のために授業を提供します。通常約300人の学生に役立っています。外部コンサルトの支援で、「視覚障害学生のための質の高いプログラム」をテキサス盲学校は開発しました。地域の学校は、視覚障害学生のために、それらのプログラムの有効性を認め、利用しています。
テキサス盲学校のカリキュラム部は新しい教育課程の指針を決定するため、全校的に取り組んでいます。初めは、盲学校の職員のため、次には、州全体のため、最後には全世界へむけて開発されます。
テキサス盲学校は、有益なプロジェクトをもち、研究のために学生やスタッフを必要とする外部の研究者を歓迎します。内部での研究開発はカリキュラム部によって進められます。
10年前、テキサス教育庁は、州全体の視覚障害学生の認知と登録をするようにテキサス盲学校に依頼しました。
テキサス盲学校のウェッブサイトは、情報と資源を州全体に共有するというプロジェクトとして始まりました。今、www.tsbvi.eduは世界的なリソースとなりました。
州全体へのリソースセンターの役割をするという現れとして、テキサス盲学校は、教育サービスや教材教具を届けることをしています。
テキサス盲学校は、州の市民に対して、視覚障害者の成功談や能力の理解について伝えるという役割を認識しています。
テキサス盲学校は、自分たちの学校と同様に、地域の学校教員の専門的育成を担っています。
テキサス盲学校のアウトリーチ部は、学生、教師、親および管理者に技術的援助を提供するモデルとして米国全体にわたって有名です。2つのチームがあります。ひとつは盲ろう学生のためのもの、もうひとつは視覚障害者のためのものです。
テキサスでは、他のすべての州のように視覚障害学生のための教師と歩行指導者の慢性的不足に苦しみました。この問題に答えるために、テキサス州議会は教師不足を少なくしていくことを進めるリーダーとしてテキサス盲学校を指定しました。テキサス盲学校はこれを遂行するために州立大学と契約をしました。テキサス盲学校は、新任教師のための助言プログラムを開発しました。
テキサス盲学校は、学期中に短期授業を提供するという考えはありませんでした。しかし、私たちは考えを改善し、拡張しました。地元の学校で学習している学生に、盲学校のキャンパスへ短い時間(2日〜1週間)来てもらい、特別な領域の集中的学習をする機会をつくっています。盲学校での滞在期間中、教科を個別的に指導することで、学生が地域の学校で学んでいることを遅らせないということを、地方教育委員会に保障することができます。
私は、これらのどれも15年前に存在しなかったことをあなたに強調したい。テキサス盲学校は生き残るためにこれらの責務を負ったわけではありません。もっと正確に言えば、テキサス盲学校は、注意深く視覚障害学生のための教育の現在の状態を分析し、将来へ挑戦することを試みてきたのです。そして、教育の機会均等を目指し、テキサスのすべての子供に提供することを目指したプログラムを開発しました。テキサス盲学校がこの挑戦を受けないとしたら、誰がするでしょうか。